電脳予想器は高額当籤の夢を見るか?

「籤の当たりを予想出来る」と称する器械やプログラムに対するツッコミです。

以前ここに書いた『ナンバーズで当たりを出す?』の内容を、加筆修正しました。
検証プログラムも、多少変更しています。

結論から先に言ってしまうと、予想器で当たりを出す事は可能です。 「当たらない予想器」という物はありません(と言うか、作れません)
し、その確率はデタラメに数字を選んだのと同程度です。 乱数サイコロで数字を選ぼうが、自分の電話番号や誕生日で一点買いを続けようが、日付で買おうが、それらの買い方を上回る確率で当たりを出す事は出来ません。
広告のウリとして、過去に大当たりを出せた実績は語られています。 でも、語られる事のない大量のハズレの山の存在に思いを馳せる必要があります。

もし本当にデタラメ以上の確率で予想が出来るとしたら、それは「籤の運営にイカサマがある」という主張と同義です。

予想器の勝率は、貴方の勘と変わりません。 であれば、運は自分でコントロールしたいとは思いませんか?

言葉の定義

当籤
選挙は当選、籤は当籤
“籤” は常用漢字ではないので「当せん」と書かれる事が多い。
予想器
を当てられると称する器械。 電卓型の物が多い。
PCのソフトウェアも含む。

募集

が愛読している『TV Bros.』に、籤予想器の通販広告がよく載っています。 には、ホチキス留めのど真ん中から右へ 1 枚めくった所に『当選大王』¥37,800(当 “選” じゃなく当 “籤” なのでは?)、番組表直後の占いページから左へ 2 枚めくった所に『スーパーゲッチュー Ver.3』¥49,800 という商品の通販広告が、それぞれ載っています。
これらを、ツッコミ用に説明書みで是非しいと思っています。 でも、当てられない(後述しますが、デタラメと同程度には当てられます)器械の為に出すには、ちょっと金額が大きいんで躊躇しています。
どなたか安価で譲って頂けませんか?  個人的には、適正価格は定価の 1/10 位が妥当で、それ以上の価値がある物だとは思えません。 いや、それでもまだ高いかもしれません。

『ドンピシャ君』(Windows 用Visual BASIC で書かれた予想ソフト)にはツッコミ代として ¥3,000 払っているんで、この程度が許せる限度額でしょうか。
そう言えば、Yahoo! 掲示板で『ドンピシャ君』にツッコミを入れていた掲示板のトピックはなくなってしまった様ですが、何故なくなったんでしょう。 理由をご存じの方、教えてください。

購入者の都合

り易い所から。
これらの予想器が対象にする籤は、当籤者が複数いた場合には当籤金額をその人数で割ります。 もし当籤番号を予想する方法が存在するとしたら(いや、私は存在しないと確信していますが、あくまで例えとして)、不特定多数の他人に教えたりするでしょうか。
す見す自分の分け前が減る様な行為をする心理というのは、私には理解出来ません。 もし私がそんな法則を発見したら、独りでこっそり使います。 誰だってそうするでしょう。
この点だけを考えても、予想器が胡散臭いのは明々白々です。

主催者の都合

ず当てる方法が存在するとしたら、当てた側よりもむしろ主催者側が不正をしている様な印象を、私は受けます。
の商売として成立するには、抽籤器は物理的にランダムにしてある筈です。 にも関わらず必ず当てられるとしたら、抽籤にインチキがあって(つまり、実はランダムではない)そのインチキを教えて貰っているんだとしか考えられません。 つまり、「抽籤前にもう当籤番号は決定していて、それを教わる」以外には確実な予測は不可能です。
そうではなく、もし抽籤器の状態を観測する事で当籤番号が予想出来るとしたら、そんなミスを主催者が見逃しているというのは考えにくいです。 それに、数多ある予想器には、抽籤器の状態を入力する様な仕組みもなさそうですし。

物理の都合

抽籤器は物理の法則に従って抽籤を行います。 という事は、抽籤器の初期状態さえ判れば、後は物理シミュレーションで当籤番号を知る事が出来そうに思えます。
でも、原理的には一見可能そうですが、データ量と計算量があまりに膨大なので、世界最速・最大容量のスーパーコンピュータと最先端の物理シミュレーションソフトを使っても、完全な予測をする事は出来ません。 ‥‥と、カオス理論が導いてくれます。
ましてや、パソコンや電卓程度の器械には絶対に無理です。

記憶の都合

簡単な例として、コイン投げを考えます。 表が出る確率も、裏が出る確率も、共に 50% です。
、9 回のコイン投げをした所、9 回連続で表が出たとします。 それは 1/512、0.195% 程度の確率でしか起こらない事です。
では、次のコイン投げ 1 回に注目して、表が出る確率はどの程度あるでしょうか。 10 回連続で表が出る確率は 1/1024、0.098% というとても小さな値ですが、個々の試行で表が出る確率は常に 50% です。
過去 9 回の連続を覚えているのは観測者の記憶の問題であって、コイン自身(?)はそんな事を知りません。
の抽籤に話を戻すと、過去の抽籤結果を記憶している予想器の、その記憶を頼りに予想は出来ないという事です。 抽籤器も、その中の玉も、過去の結果なんて覚えていません。

乱数の都合

0〜9 の乱数が得られる時、どの数字の出現頻度も大局的には 10% ですが、0〜9 全ての数字が出現するのを経験するには大抵の場合 10 回では足りません。
n 通りの事象が等しくランダムに起こり得る時、全ての事象を経験するまでの平均試行回数は‥‥

 n     n      n        n
─ + ── + ── + … ─
 n    n-1    n-2       1

‥‥という式で求めた値の小数点以下を切り上げる事で求められます(独自に解いたので、この式にもし名前があるとしてもそれを知らないんですが、ご存じの方は教えてください)
Ruby の 1 行プログラムだと‥‥

ruby -e "s = 0; (1..10).each do |i| s += 10.0/i end; p s.ceil"

‥‥といった感じになります(以前、Ruby に ceil() がないかの様な記述をしてありましたが、ceil(num) の形で探したからなかっただけで、num.ceil ならちゃんと存在しました)
10 通りの場合、平均試行回数は 30 回になります。
30 回目にしてようやく 0〜9 の数字が揃った時、30 回 - 10 通り = 20 回分の重複があるのが、平均的な出現傾向という訳です。 局所的に少し偏りがある位で「何か法則を発見した!」と喜ぶのは、はっきり言って勇み足です。

数学の都合、の検証

を簡単にする為に、0〜9 の 1 桁の数字を予想する事を考えてみます。
Ruby で簡単なプログラムを作ってみました。 zip で圧縮してあります。

 lot113.zip 7,334 bytes

ANSI エスケープシーケンスを解釈可能なコンソールで実行してください。 16bit 系 Windows では、msdosdjgpp 版の Ruby ならばエスケープシーケンスをコンソールに渡せる事を確認しています。
試行回数(第 1 引数)の省略値は 1,000,000 回、表示のステップ数(第 2 引数)の省略値は 10,000 回毎です(この回数だと、ウチの非力な PentiumⅡ-300MHz の PC で約 11 分かります)
表示はそれぞれ‥‥

Random
別系統の乱数による、当てずっぽうな予測です。
Bignum
大数の法則を期待した、最小頻度の数字による予測です。
Trend
出現傾向の偏りを利用した、最大頻度の数字による予想です。
Correlate
「ある数字の次に出易い数字」の統計を利用した予想です。
Always 'n'
最初に決めた数字にずっと賭け続けます。
Sequence
順番に 1 づつ増やし(て循環させ)た数字に賭けます。
Delay
前回の当たりが、次にも現れると期待する予想です。
Diff 1
「前々回→前回」の差が、次にも現れると期待する予想です。
Diff 2
「前々々回→前々回」の差が、次に現れると期待する予想です。

‥‥を意味します。
どの方法で予想しても、1,000,000 回の試行で、理想値から 0.1% 以上の差が出る事はありません。
に、最終的な各数字の出現頻度が大数の法則で理想値の 10% へ近付いていくのに、それを期待して「今迄に最も出にくかった数字」に賭ける予想乱数と同じ精度にしかならないには、ある種の快感すら覚えます。
記憶の都合で述べた通り、「前回と同じ当たりがまた出る」と期待する予想でも、他の予想との差はありません。
これらの結果から、どんな予想器でもデタラメな予想と同程度に当てる事は可能だという事は言えます。 しかも、意図してデタラメ未満の確率にするのが難しい位です。

し、このプログラムで言えるのは「コンピュータが作り出(擬似)乱数を予測する事は不可能」だという事だけであって、「実際の籤を予測出来る可能性」とは別次元の問題である可能性は残ります。
でも、実際の籤は、専門家による乱数検定をパスしてますよね?  数学的に、そう大きく隔たった問題だとは思えません。
みずほ銀行の宝くじコーナーの Web にはロトの過去の当籤番号ナンバーズの過去の当籤番号が載っていますから、そのデータを入力して、それを生成して予想させる様にこのプログラムを改造してみるのも面白いかもしれません。 ま、仮に現在までの当籤番号を貫く関数が作れたとしても、未来に破綻するのは明白なんですけど。

このプログラムに、コンピュータの癖(内部で使っている擬似乱数関数の癖を利用するとか、random seed を利用するとか)に依存しないで、1,000,000 回の試行で理想値より 0.1% でも優秀な成績が出せる予想メソッドが追加出来るのなら、が賞金を払ってもイイです。

刑法の都合

これらの予想器を売る側の立場は、どういった物でしょう。
「籤購入の参考にどうぞ」というのであれば、私は問題視しません。
「過去にこれだけ当たりが出ました」というのは、ちょっと微妙な感じがします。
「これで貴方も当てられます!」というのは、私はもう立派に詐欺だと思うんですが、どうなんでしょうか。
雑誌の通販広告に載っていた予想器は、どちらも電卓や時計として使える様ですが、それにしては高過ぎます。
ある所で仕入れた知識によれば‥‥

 例えば、小麦粉を『痩せる薬』と称して、小麦粉相当の価格で取引したとしても、 相手が小麦粉と知っていたら購入しなかったというような場合は、詐欺罪が成立するということです。

‥‥だそうです。 これら予想器の購入者は、デタラメと同程度の予想しか出来ない器械だと知っていたら、大枚いて購入していたでしょうか。
この手の籤予想器に対して、JARO や国民生活センターはどう思っているんでしょうか。
、この手の籤予想器に関する判例って存在するんでしょうか。